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 ざぱーん。

「……暇だな……」
「……暇ですね……」

 ざぷーん。

「……海賊でも出ませんかね……」
「……出ないかな……」
「イッ、イイイイオン君!? シンク君ッ!?」

 退屈のあまり本音をぶっちゃけた護衛獣たちに、召喚主の悲鳴が広く青い大海原に響きわたった。







 サイジェントの港から出航して四日。
 行きはまともな船旅など初体験でもあり、ちょうど豊漁際を訪れていた船乗りや客が多かったこともあり、一躍船の人気者となったイオンとシンクは船酔いなど吹き飛ばすだろう勢いで船旅を満喫していた。
 しかし、流石に二度目ともなれば慣れが生じてくる。
 することもなく船室に篭もるのも飽きて船べりに体をあずけて波間をぼーっと見ていたせいか、ついつい口が滑ってしまったらしい。

「嫌ですね、ほんの冗談ですよ?」
「そ、そっか、冗談だよね」
「ええ勿論です」

 嘘つけよ。
 確実に本気だったはずの片割れの笑顔を眺めつつ、シンクはそう内心で毒づいた。
 同じ顔のはずなのに一発で不平不満を鎮めるこの説得力、そのうち是非会得してみたいものである。

「でも、不謹慎だから冗談でも止めようね、二人とも」
「「はーい」」

 極めてよい子の返事をする護衛獣たちに、は笑顔を浮かべる。
 けれどその申し訳なさそうな表情に、イオンとシンクはまだ気にしているらしい、と困ったように肩をすくめてみせた。

 ……本来は、サイジェントにもう一月は逗留する予定だった。
 ミモザに紹介された召喚師たちは、実力が違いすぎて倒れそうになるくらいの面子だったのだが、肝心の送還方法に収穫はあまり進展はなかった。
 だが地元の少年と意気投合し、楽しそうに遊んでいるイオンとシンクに、せっかく来たのだししばらく長居しようかなとが決意した矢先のこと。
 ――各地で召喚師が行方不明になる事件が発生し、派遣された者以外は一時蒼の派閥に帰還するようにという指示が送られてきたのだ。

「二人だけでもサイジェントに残してあげられれば良かったんだけど……」
「護衛獣が主から離れてどうするのさ」
「僕たちのことは気にしないでください、

 それに目を離したら帰ってこなさそうだしね……。
 冤罪だ何だで牢獄入りしそうな危険がぷんぷんしますから……。
 家柄と実力は十二分にあるがどうにも自覚が足りない召喚主を素直に見送れるはずもなく、絶対に手紙を書くから、とカノンと堅く約束を交わしてきたのはつい先日のことだ。
 放っておけばどんどん落ち込む癖のある召喚主に、イオンが話を変えようとこう切り出した。

「ところで、蒼の派閥に戻ったあとはどうするんですか?」
「あ、うん、それなんだけどね……帝国に行こうかと思ってるの」
「「帝国?」」

 聞きなれない名前に、イオンとシンクは首をかしげた。

「帝国は聖王国――今いる国と違って、召喚術が民間にまで広く普及しているの。軍部にも専用の研究所があるって話だし、この際ちょっと足を伸ばしてみたいな、と」
「ですが、聖王国と帝国は数年前まで戦争状態だったんですよね?」
「は? 大丈夫なのそれ?」
「いや、あんまり大丈夫じゃないよ。だから一度ファナンに戻って、ファミィさんにお会いできないかなって」
「……あぁ、あの人……」

 二人の脳裏に、金髪金目のほややんとした女傑の姿が浮かぶ。
 先日、黒の旅団を撃退したお礼としてゴールドカード(金の派閥印・ファナン商店街全商品五%引き)を頂いてしまったことは記憶に新しい。

「聖王国では蒼の派閥、帝国では金の派閥の権威が強いの。だからファミィさんに推薦状を頂ければ、多分簡単に入国できるはず。……二人を連れ回すことになって本当に悪いんだけど……」

 済まなそうに目じりを下げる、どこまでも腰の低い召喚主に、二人はそんなこととばかりに破顔した。

「僕らの都合なんて気にしなくていいよ」
「どこまでも僕たちはティカを護りますから」
「イオン君……シンク君……!」

 は素直に感動した。
 その手に帝国限定美食ガイド『ミュランスの星』が握られていなければ。
 やっぱり絶景は重要だよ、いえいえ温泉も外せません、と赤線と付箋だらけの読み込まれたミュランスの星(今年度版)を見て、はほんのちょっとだけ切なくなった。
 けれども本当に楽しそうなイオンとシンクの様子に、まぁいいかとが笑みを零した時だった。



「海賊だ――!! 海賊が出たぞ――!!」



 見張り台から張り上げられた声に、ばっと二人が互いを振り返る。

「イオン!」
「ええシンク!」

 満面の笑顔だ。輝いている。
 よっしゃ来た来た鴨ネギ夏の虫、というのが一番近いだろう。
 船からぞくぞくと船乗りたちが現れ、甲板で休んでいた人々が、悲鳴を上げながら船室に戻っていく。しかしそんな緊迫した状況で、イオンとシンクはにっこりとに微笑んだ。

は安全なところに居てくださいね」
「すぐ片付けてくるよ」
「え、ちょっ、ちょっと待って二人とも……」

 懐から武器を取り出して颯爽と駆け出していく二人に、も続こうとした、その時。
 何の予告もなく、稲妻が船のマストに打ち当たった。
 びりびりと鼓膜を振るわせる激しい轟音を上げるマストをあざ笑うかのように、静かだったはずの海が荒々しい高波となり、船を縦へ横へと大きく揺さぶりだす。
 美しかった青空は見る間に分厚い雲が覆い隠していき、やがて大粒の雨が降り注ぎ始めた。

「まさか、嵐!?」
「さっきまであんなに晴れていたのに……召喚術ですか!?」
「……違う。こんな魔力の流れは人間には――っ!?」

 できない、とが言いかけた瞬間だった。
 これまでになく大きく甲板が揺れて、足元が浮く。視界がぶれる。
 気がつけば、似ているようで似ていない二人の護衛獣の姿が、潮風で痛んだ手すりの向こう側に見えた。

!!」

 果たして、それはどちらの声だったのか。
 確かなのは、必死に伸ばされた二人の手を掴むよりも早く、の体は荒れ狂った海に叩きつけられた。

「……っ!!」

 ごぽり、と口から泡が漏れた。
 抵抗しようと考える暇さえ与えられず、次々と暴力と化した奔流に押し流される。
 必死に海面目指してやみくもに手を伸ばそうとするが、荒れ狂う海はただ闇が広がるだけで上も下も分からず、を嘲笑うかのように子供の悪戯のようにかき回される。
 口から鼻から空気が奪われ、やがて泳ごうとする気力さえも奪われていく。
 死ぬのだろうか。
 そんな考えを最後に意識が失われようとした一瞬、ひどく慣れ親しんだものに触れた気がして、は藁にもすがる思いでありったけの力を指先に込める。


 ――そして鮮やかな朱色の光が、の体を貫いた。





 南の島編、開始です。
 本人まだ現れてもいませんが、ルークは外見七歳児です。
 体をアッシュに譲って魂のみの召喚なので、魂年齢ってことで! ……だ、駄目ですかね……(ガクガク)。

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