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 貴方も私もクリスマス





 それは聖夜の一週間前。
 高校生組が寮の談話室にて、二十四日〆切りの宿題に追われていた、ある日のこと。
 彼女には珍しく、苦虫を数匹噛み潰したような苦々しい面持ちのは、周りには脇目もふらずに友人たちの元へと歩み寄ってきた。

「よっ、姉さん」
「どうした」

 気楽に挨拶した二人にもは無言のまま、懐からあるものを取り出し、差し出した。
 突然目の前に突き出してきたそれを、二人はまじまじと見た。

「……何だこれ?」
「ログ・セール大陸高等部主催、X‘masダンスパーティの申し込み用紙」

 しかも二枚。
 氏名欄にサインするだけの、気楽な書類である。
 そう言えば数日前にこんなものも配布されたっけ、と思い出したレティシアとヴァンツァーは、どこか疲れた顔で見下ろしてくる友人を見返した。

「二人ともこれ、欠席にしたでしょ?」
「あぁ」
「出んのも面倒だしな」
「だから私が、君らをどうにか説得して出席させろって差し向けられたの」
「……誰にさ?」

 レティシアの当然な問いに、は無言のまま、眼差しで指した。
 談話室の入り口から、本人は隠れているつもりで三人を――正しくはヴァンツァーをじいっと凝視している、鬼気迫った女子たちの姿。
 なんとも怪しい雰囲気の光景に、男二人は一瞬で納得した。

「ちなみにお二人さん、クリスマスのご予定は?」
「部屋でごろ寝」
「右に同じく」
「……お姉様たちが泣くねこりゃ」

 世界中の女性の期待をことごとく裏切るような発言である。
 特に学内で当人非公認活動中のヴァンツァーのファンクラブは、もう血涙を流しそうな勢いだ。
 そして微弱ながらも強烈な殺意を一身に浴びる羽目になっているは、心底面倒そうにため息をついて眉間のしわを揉みほぐす。

「しかしすげぇな。姉さんも気の毒に」
「そう思うなら協力して」
「俺たちが断れば、ただでは済まなさそうだな」

 ぎくっ。

 何気なく呟いたヴァンツァーの言葉に、解りやすくは反応した。
 そしてそれを見逃す二人でもない。
 互いの顔を見合わせて、急速にに顔色が悪くなっていく友人に説明しろ、と視線を送る。ほどなくしてはそれに陥落した。

「……タ……」
「何?」



「……ペナルティとして、ミニスカサンタで給仕を命じられます……」



 一拍の間を置いて。
 頭を抱えて大後悔中のの前で。
 レティシアとヴァンツァーは双眸を最大限まで見開いた。

「「はあっ!?」」
「……だからミニスカサンタ! 最近店先でよく見るでしょ!?」
「だからって、何でサンタだよ!?」

 こうなりゃ自棄だ。
 開き直って説明し始めたの話を要約すると、こうだ。
 日頃からレティシアやヴァンツァーと仲の良かったに、当然女子の風当たりは悪い。それでも持ち前の社交性でなんとかクリアしてきたが、今回一部の女子がとうとう爆発した。

 今度のダンスパーティにお二人を連れて来なさい。
 私たちを差し置いて、ヴァンツァー様とあれだけ仲が宜しいんですもの、それくらい簡単にできますわよねぇ?
 失敗すればダンスパーティで道化役をさせるから、何としてでも頷かせるのよ!
 いい、分かったわねっ!?

「……みたいな」
「逃げちまえばいいじゃん」
「考えたけどね、流石にログ・セールの女子の大半を敵に回す度胸はありませんー」

 ここで逃亡すれば、確実に報復が待っている。
 結束した女子の恐ろしさも、その言葉の不条理な正当性も身に染みて知っているは、これも仕方ないかと既に諦めモードである。
 一方レティシアとヴァンツァーは、実に友達概のない返答だった。

「ダンスパーティとやらに興味はないが……」
「姉さんのサンタ姿は、是非お目にかかっておきたいね」

 意地悪く笑う、元凶二人。
 しかしそんな彼らに、更に意地悪く悪辣にも笑ってみせた。

「別に構わないよ。見たいならどうぞ? 少しでも会場に現れた瞬間、総勢三桁の女子に囲まれて食いつかれて正月まで逃げられないこと必至だけどね。特にヴァンツァーとかヴァンツァーとかヴァンツァーとか。それでもいいなら、ええどうぞご自由に?」
「「……」」

 相手は目の前に餌を下げられた猛獣も同然。
 “クリスマス”というスパイスも加わって、その暴走は普段の倍以上。
 しかも場所が場所、無礼講がテーマの男女入り混じったダンスパーティだ。五体満足で帰宅できる可能性は消費税よりも低い。
 思わず考え込んだ男たちに、諦めたように肩を竦めてみせた。

「とりあえず渡しとくね。気が変わったら参加して」
「解った」
「ま、気が向いたらな」

 あっさり頷いたレティシアとヴァンツァー。
 しかしそれはフェイクだった。
 彼らは用事が終わって立ち去っていくヒビキの背中が見えなくなるなり、互いの顔を見合わせ、試験中よりも真剣な面持ちで話し始めたのである。

「で、どうする」
「決まってるぜ。見物しなくてどうするってんだ」

 何しろのミニスカサンタである。
 ある意味リィの女装よりも付加価値が高い代物を、この目に焼き付けなくてどうしろと言うのか。そしてこっそり隠し撮りした写真を知人にばら撒いて、彼女が慌てふためくところも是非見ておきたい。
 しかし気楽そうなレティシアと対称的に、ヴァンツァーは浮かない顔だ。

「忍び込むくらい、楽勝だろ」
「いや、止めた方がいい。少しでも姿が目撃されれば、即座にその情報が会場中に伝染する。追っ手を気絶させていいなら楽だが、危害を加えず、しかも三桁近い相手から逃げるのは無理がある」

 流石は毎日逃走劇をしているだけがある。
 言葉の重みがぐんと違う。

「んじゃ、どうするよ。誰かに頼むか?」
「この時期にか? 下手に借りをつくれば、当日何を求められるか解らんぞ」
「だな。どこに伝わるかも分かんねえし……」

 勿論当人に頼むわけにもいかず。
 第一こういった企みは、隠しておくから楽しいのだ。
 そしてエクサス寮でも五指に入る美少年二人は、この忙しい時期に、レポート以外で頭を悩めることとなったのである。



 しかし二人は、忘れている。
 変装の得意な大型夫婦がすぐ近くにいることを。
 そして二人が話を聞きつけ、面白がって乗り込んでくる可能性は、現時点で75%。





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