夜も更けて、蝋燭の灯火がほのかに美しく輝きだした頃。
今をときめく業界人の中でも特に招待主と親しい人々を選び抜いた、一夜限りのパーティーが行われていた。
広大な庭園に面した大広間がようやく暖まりだした頃、一人の娘が現れた。
年は二十かそこらに見えた。
艶のない漆黒の絹布でつくられたドレスは、ドレープや詰め物の存在をまったく無視した、腰に同色の帯を巻いただけのシンプルなもの。ともすれば地味なだけの印象になりがちな衣装を、しゃらしゃらと胸元で揺らめく銀細工の施された黒真珠の首飾りが華やかに引き立てる。
袖がざっくりと切り取られたドレスから覗く両腕には、蔦や蜥蜴をかたどった黒いタトゥーが何とも艶かしい。
その白い繊手が握るのは、身の丈ほどもある銀の大鎌。
細い頤の傍で揺れるのは、瞳と同じ色をした黄水晶の耳飾り。伏せがちだった瞼がそっと前を向き、血の色に塗られた薄い唇がゆっくりと開くと――。
「……ぶえっくしゅ!!」
いろいろと台無しだった。
周囲の招待客をドン引きさせたことなど露知らず、は重たい大鎌の先を――何しろ床は総大理石――そっとドレスの裾に乗せた。
正直周りのことなど目にも入らないほど、精神的に疲れていた。
何しろ今回の仮装は、監修ジャスミン・クーア&シェラ・ファロットの二大コンビ。
朝から全身マッサージに美肌ケア、パックにアロマに小顔矯正。掴まれ剃られ塗りこまれ揉みしだかれ、『もうお嫁に行けない……っ』とか泣いてみても許されるんじゃないかとは思う。
しかし、おかげで肌はつるつる、髪はさらさら。
さらには本職のメイクアップアーティストによる化粧を施され、一生憑いて回るなこりゃと諦めていた童顔も多少払拭されて、見違えんばかりに美人に仕上げてもらった。
しかしあまりの変貌振りに、『……これが、私?』とか思うよりもまず、化粧は女性最大の詐欺なのだとは改めて恐ろしさを思い知った。いやだってこれ、むしろ特殊メイクの域のような。
そんなこんなで所要時間六時間半の超大作。
しかしこの格好、ドレスは薄い布地で腕は丸出し、しかもちょっと貧相な胸の代わりに背中が大胆に開けられているため、とてつもなく寒い。お腹にホッカイロを貼ってもいいかと聞いて、デザイナーさんにマジ泣きされたのも記憶に新しかった。
無意識にカボチャのランタンの傍に近寄り、ヒビキはタトゥーシールがべったり貼られた両手をこすり合わせながら考えた。
ホストへの挨拶は既に済ませた。
生花や宝石をふんだんに纏った、ジンジャー扮する“妖精の女王”は、目が眩みそうなほど美しかった。むしろ後光が差していた。あの姿を拝見できただけで十分価値があったが、むしろ目的を済ませたような気分になっていたのだが、本来の目的はまったく終わっていない。
軽く大学部の体育館を三つ繋いだくらいの広さがある広間には、既に彼らも――六歳〜十歳までと様々に年を取った友人たちもいるはずである。
――しかし問題は、誰がどんな仮装をしているかを全く知らないことである。
その方が面白いよね、の一言に乗せられて、訪問する時間も別々、仮装の用意をする場所まで別々にしてしまったはいいが、予想以上に人数が多く、場所が広大すぎた。平時ではあれだけ目立つ面子なのに、その片鱗さえまったく窺えないのだから凄い。
どうしようかな、と首を捻ったのも一瞬で、はあっさりさじを投げた。
そこいらでふらふらしていれば、誰かに出くわすだろう。
「さて、と。何しようかなー」
→カクテルを飲む
→デザートエリアを制覇
→あちこちをうろうろする
→周囲の仮装を眺める
ヒロインの仮装は『死神』でした。
せっかくの季節企画なので、微妙に恋愛要素を含ませてみようと思います。
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